
現在の日本の医療保険制度は、すべての人が公的医療保険に加入し、お互いの医療費を支え合う「国民皆保険制度」です。しかしながら日本の国民医療費の総額は、毎年1兆円を超えるペースで増え続けており、現在の仕組みのままでは、国民皆保険制度を支えることが難しくなってきている現状です。民間保険の加入を考える際に加入する保険は、公的保険で不足する分を補填できるものを選択するのが効果的です。ちゃんと機能する保険を選ぶために、まずはどのような公的保障があるのか知っておきましょう。
目次
日常生活を保障する「国民皆保険」の特徴とは
健康割引とは

1958年に国民健康保険法が制定されてから、日本ではすべての人が公的医療保険に加入することが義務づけられました。これを「国民皆保険制度」と呼びます。保険の財源は、私たちが納める保険料と国と自治体の工費で賄われています。2000年には世界保健機関(WHO)から総合点で世界一と評価されたことからもわかるように、日本の国民皆保険は世界に誇れる制度なのです。公的保障制度の中から、私たちの生活に身近な社会保険と国民健康保険についてご紹介します。
国民のセーフティーネットである社会保険

社会保険は、医療保険や年金保険に代表される制度です。企業に勤めている場合、健康保険組合などが運営する保険制度の被保険者となります。被保険者として加入していれば、病院で診察を受けても医療費の3割負担で診察を受けることができます。残りの7割は自分が加入している医療保険(健康保険、国民健康保険等)が負担してくれます。このように、病気やケガ、出産、死亡、障害、失業などの際に一定の割合で社会保険の給付を受けられるため、国民の生活水準の保障と保健医療水準を高いレベルで実現しています。
他の保険に属さない人が加入する「国民健康保険」
自営業の方や専業主婦、無職の方、学生は国民健康保険に加入します。失業した方は以前の勤務先の社会保険を継続できますが、期間が決まっているのと保険料が勤務時の給与を元に算出されるため、会社勤務時と同等の高額な負担になる可能性があります。市区町村窓口に相談して、任意継続を利用するか国民健康保険に切り替えるかを冷静に判断しましょう。
公的保険が公務員や専業主婦に「手厚い」と言われる理由
会社員や公務員などが加入する健康保険は、運営主体である保険者の違いによって主に次の3種類があります。
組合保険 | 主な被保険者は大・中規模企業の被雇用者とその扶養者。企業が単独、あるいは共同で設立して保険者となります。設立条件の社員数は、単独の場合は700人以上、共同の場合は3,000人以上が設立の条件 |
全国健康保険協会 (協会けんぽ) | 主な被保険者は大・中規模企業の被雇用者とその扶養者。組合を設立しない企業の被雇用者を対象とした健康保険で、全国健康保険協会が運営する |
各種共済組合 | 国家公務員とその扶養者が対象の「国家公務員共済組合」、地方公務員とその扶養者が対象の「地方公務員共済組合」、私立学校の職員とその扶養者が対象の「私立学校教職員共済」の3つがある |
健康保険などの公的保険に加入しても医療費の負担は3割ですが、健康保険で給付される給付金の種類や医療費控除の仕組みは幅広く、さまざまな保障があります。
病気やケガの療養で休業したときの保障「傷病手当金」
傷病手当金は健康保険、共済組合などの被保険者が病気、ケガの療養のために仕事を休んだ場合の生活保障をおこなう制度です。連続して休んだ3日目以降、給付期間は最長1年6ヵ月です。支給日額は支給開始以前12ヵ月の各月の平均額を30で割った額の2/3です。
医療費が年間10万円を超えた場合に適用「医療費控除」
一定額以上の医療費を年間で支払った場合に、納めた税金の一部が戻ってきます。その年の1月から12月までに支払った医療費合計額から保険金などで補填された額と10万円を引いた額が対象で、上限は200万円です。保険金で補填される額として差し引くのは、生命保険の入院給付金、健康保険で支払う高額療養費、出産育児一時金などです。なお、控除を受けるには会社員でも確定申告をおこなう必要があります。医療費控除の対象については、こちらのページをご確認ください。
この他に妊婦の方には「出産手当金」と「出産育児一時金」などが給付されます。また、月の医療費の支払いが一定額を超えた場合、「高額療養費制度」によって定められた金額を超過した自己負担が抑えられます。このように公的な保険制度は手厚いことがわかりますが、だからといって民間保険が不要とは一概には言えません。入院時の食事代、差額ベッド代、先進医療の技術料は公的保険の対象外となります。公的保険で賄いきれないような自己負担が大きくなるケースでは、民間保険を利用してカバーすることが大切です。
公的保険だけでは不足?民間保険の上乗せ保障をどのように考えるか
「公的保険さえあれば安心だから、民間保険は必要ない」と考える方がいます。しかし、入院や手術をすることになった場合、医療費が高額になってしまうケースもあります。この負担を軽くするために一定額を超えた額を支給する公的保険が「高額療養費制度」です。
制度対象期間 | 月の1日から末日までの1ヵ月間 |
限度額 | 年齢や所得区分に応じて決定 |
対象者 | 健康保険加入者(国民健康保険、健康保険組合、全国健康保険協会等)細かい規定は各保険によって異なる |
支払った医療費すべてにこの制度が適用されるわけではなく、適用外のケースがあります。全額自己負担となるものには、自然分娩による出産、美容や審美を目的とした自由診療の歯科治療、先進医療費、差額ベッド代、入院時の食費などがあります。治療が長引いた場合や、がん・脳疾患・心筋梗塞といった三大疾病になったときには高額な医療費となり自己負担額が大きくなります。高額療養費制度を含む公的保障ではカバーしきれない予想外の出費には、預貯金を切り崩して対応する方もいますが、家族がいる場合は子どもの教育費や住宅ローンの支払いもあり、預貯金に余裕がないというケースも十分に考えられます。
家族のライフプランのために用意した預貯金を使わなくて済むようにするには、公的保険の保障範囲などを理解したうえで、民間保険の上乗せ保障も検討すると良いでしょう。
まとめ
公的医療制度は、会社員などが加入する「健康保険」、自営業者などが加入する「国民健康保険」があり、さまざまな保障があります。しかし、病気やケガで長期間働けなくなると収入が途絶え、公的保険ではカバーできない場合があります。そのため、万が一に備えて民間保険で補うという考え方が大事になります。民間の生命保険を選ぶ際には、自分や家族が加入している公的保険の種類や内容を理解し、公的保険で不足する分をカバーできる保険を選びましょう。
公的保険と民間保険の違いと選び方については、「知っておきたい公的保険と民間保険の違いと選び方」をお読みください。
【執筆者】
保険メディア編集部
【執筆者】
工藤 崇
1982年北海道生まれ。多数の執筆の他、Fintech関連のセミナー講師実績を有する現役の独立型ファイナンシャルプランナー(AFP)として活動中。
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