職場での悩みの多くは、人間関係によるものと言われています。上司や同僚、後輩、取引先…さまざまな人間関係のお悩みを、人事歴20年超、心理学にも明るい曽和利光さんが受け止め、アドバイスします!
解説者プロフィール
曽和利光さん
株式会社人材研究所・代表取締役社長。1995年、京都大学教育学部教育心理学科卒業後、リクルートで人事コンサルタント、採用グループのゼネラルマネージャー等を経験。その後、ライフネット生命、オープンハウスで人事部門責任者を務める。2011年に人事・採用コンサルティングや教育研修などを手掛ける人材研究所を設立。『「ネットワーク採用」とは何か』(労務行政)、『人事と採用のセオリー』(ソシム)など著書多数。

お悩み相談内容(20代女性/総務サポート)
ベテランの先輩が、間違った指摘をしてくるのが面倒です
最近新しい職場で働き始めたのですが、先輩の派遣スタッフでちょっと苦手な方がいます。
そのAさんは40代のベテランなのですが、業務を進めるうえで、必ず「私に確認を取ってから進めてください」と言います。それだけならいいのですが、大体において社員の方が求めているものと違う指摘をし、修正を求めてくるのです。そういった状況が重なって、社員の方に直接確認を取りながら業務を進めたところ、「なぜ私に見せないんだ!」とAさんに激怒されてしまいました。
社員の方に、「Aさんにちゃんと状況を伝えてください」とお願いしているのですが、なかなか対応してもらえません。というのも、1を言えば10で返ってくるので強く言うことができず、Aさんとコミュニケーションを取ることを面倒くさがっているようです。私自信も、できれば関わりたくはありませんが…。こうした状況を打開する、いい方法はありませんか?
目次
先輩を褒めまくり、承認欲求を満たしてみる
このAさんは、職場で認められたいだけなのかもしれません。
頑張りを認めてもらいたいのに、周囲に「あまり関わりたくない」「コミュニケーションが面倒くさい」と距離を取られていることが我慢ならないのだと思います。だから、承認欲求を満たすために、「必ず私を通せ」と言っているのではないでしょうか。
彼女の承認欲求さえ満たされれば、今の状況は改善するはず。従って、皆で寄ってたかってAさんと関わり、「すごいですね!」「さすがですね!」などと褒めることをお勧めします。
そもそも、「自分の担当以外の業務に目を通し、丁寧にフィードバックする」のは、その指摘が合っているかどうかは別にして、Aさんにとっては相当な負荷です。「Aさんのご指摘のおかげで、だいぶコツがつかめてきました。ありがとうございました!」などと随所で感謝を伝えれば、さらに承認欲求が満たされ、徐々に自分を通さず業務を任せてくれるようになるかもしれません。
業務の初期段階で先輩に相談し、「意向を確認しておく」のも有効
もう一つの仮説は、Aさんが「責任感は強いが、仕事のスキルはそれほどでもない」タイプである、というもの。
責任感が強いのは悪いことではありません。だからこそ、新入りであるあなたの業務を先輩として「チェックしてあげている」のだと思います。ただ問題は、能力がそれに追いついていないという点。だから、見当違いの指摘を繰り返しているのでしょう。
以前、スペインの高齢女性が、教会のイエス・キリストのフレスコ画を、まるでサルのように修復してしまい話題になりましたが、まさにそのタイプ。悪気が一切ないので、かえってタチが悪いかもしれません。
Aさんがこのタイプだとしたら、有効な策は「業務の初期段階でAさんに確認を取っておく」だと思います。
仕上げたものを確認してもらうのではなく、業務に着手する段階で「こういう方向でまとめようと考えているのですが、どう思われますか?」と意向を確認しておくのです。きっと責任感が強いAさんは、いろいろな指摘やアドバイスをくれるでしょう。そして、そのアドバイスを「随所に散りばめて」業務を遂行するのです。
ポイントは、完成物を確認してもらうときに、「Aさんのアドバイスどおりにやったら、うまくできました!ありがとうございます」と伝えること。
中身は、アドバイス通りでなくて構いません。自身が正しいと思う方法で仕上げてしまってOKです。ただ、アドバイス内容をキーワード的に散りばめておくことで、さもAさんの言ったとおりに作ったように仕立てましょう。
少々テクニックが必要であり、ある意味目くらましてきな方法ですが、余計な波風を立てず、かつ精度の高い仕事をするためには、悪くない方法だと思います。
先輩に認められ可愛がられれば、職場で重宝がられるはず
ただ、これらの方法はいずれも、Aさんとみっちり関わることが前提となります。できれば関わり合いたくない人とコミュニケーションを取り、しかも顔を立てるなんて面倒すぎる…と感じるかもしれませんが、前述のような方法で「頼りにしている感」を出せば、Aさんもあなたのことを可愛がってくれるようになると思います。
見当違いの修正を繰り返し、周りから少々煙たがられているにもかかわらず、今の職場にい続けられているAさんは、良くも悪くも職場でパワーを持っている人なのでしょう。であれば、Aさんに可愛がられることで、社員や派遣スタッフから一目置かれるようになるはず。「Aさんにこれを伝えておいてくれない?」とか「これを通したいんだけれど、Aさんなんて言うかな?」など、周囲に頼られるようにもなるはずです。
「そんなのイヤー!」と思われるかもしれませんが、あなたが今の職場でめちゃくちゃ重宝がられ、なくてはならない存在になれるのは確か。これまで以上に社員との接点が増え、職場での評価もぐんと上がるかもしれませんよ。
WRITTING 伊藤理子